再現例 A1
【重要】〇〇アカウントの利用を一時停止しました。24時間以内にご確認がない場合、アカウントは削除されます。
目的:あわてて開かせ、ログイン画面に見える偽サイトへ連れて行く。
読むのにかかる時間の目安:約15分。上から順に読む必要はありません。
結論から
順番に読むほど納得できるように書きましたが、結論だけ先に置いておきます。この3つが、この特集の全部です。
目を凝らして見分けようとするほど、精巧なものに当たったときに負けます。見分けを人間の目に任せるのをやめます。
メールやSMSは「お知らせが来た合図」としてだけ受け取り、確認は公式アプリか、自分で保存したブックマークから入り直します。
パスキーに切り替えると、偽サイトに渡してしまうパスワードそのものが無くなります。仕組みで守る、いちばん確実な方法です。
手口
ここから、実際にどういうものが届いているのかを並べます。ただしこれは見分けるための一覧ではありません。知らなければ「大変だ」から始まり、一度見たことがあれば「ああ、これか」から始まります。変わるのは判断の速さではなく、判断の入口です。
60秒でできます。スマホのメールアプリで「迷惑メール」フォルダを開いてください。この数日のうちに、おそらく何通か届いています。どんな説明よりも、自分の受信箱にある実物のほうが早く伝わります。
「うちには来ていない」と思っている人ほど、この60秒の効果があります。ご家族のスマホでも同じことを試してみてください。親のスマホを一緒に点検する →
ここが多くの方の盲点です。9つの入口があります。
フィッシング対策協議会に寄せられた報告は、2026年6月の1か月で 72,370件 でした。前の月(5月)は126,061件です。月ごとの増減が大きいので、この数字は「いまの規模」ではなく「毎月これだけの報告が届いている」という桁として読んでください。
同じ月に名前を使われた企業・サービスは 98件。そのうち上位5つだけで、報告全体の約55%を占めます。分野で見ると通販(EC)系が約42.7%、クレジット・信販系が約27.4%。この2分野だけで全体のおよそ7割です。
2026年6月に最も多く名前を使われたのは Amazon(約24.0%)、次いで VISA(約11.8%)、Apple(約11.6%)でした。これは、その企業に問題があるという意味ではありません。利用者が多いサービスほど、名前を使えば「心当たりのある人」に当たる確率が上がる、というだけのことです(この点は04で詳しく説明します)。
出典:フィッシング対策協議会「2026/06 フィッシング報告状況」/「2026/05 フィッシング報告状況」(月次報告書)。確認日:2026年8月13日。数字は毎月更新されます。
以下はすべて偽メッセージの再現例で、実物の画像ではありません。文面は無限に増えますが、攻撃する側の目的は増えません。そこで、文面ではなく「あなたに何をさせたいか」で分けています。実在のサービス名は伏せて「〇〇」としています。
再現例 A1
【重要】〇〇アカウントの利用を一時停止しました。24時間以内にご確認がない場合、アカウントは削除されます。
目的:あわてて開かせ、ログイン画面に見える偽サイトへ連れて行く。
再現例 A2
お客様のアカウントに、心当たりのない地域からのログインがありました。ただちにパスワードの変更をお願いします。
目的:セキュリティを気にしている人ほど反応する。守ろうとする動きが、そのまま入口になります。この型があるかぎり、「気をつけていれば大丈夫」は成り立ちません。
再現例 A3
【〇〇カード】ご利用を一時制限させていただきました。ご本人様確認のためお手続きください。
目的:カード番号、暗証番号、本人情報をまとめて入力させる。
再現例 A4
お支払い方法に問題があるため、〇〇のご契約を更新できませんでした。
目的:定額サービスの更新に見せかけて、カード情報を入力させる。
再現例 A5
配送先住所に誤りがあるため、お荷物をお届けできません。再入力をお願いします。
目的:住所と電話番号を入力させ、続けてカード情報へ進ませる。
再現例 A6
あなたの投稿が著作権侵害として報告されました。24時間以内に異議申し立てを行ってください。
目的:SNSのログイン情報を入力させ、アカウントを乗っ取る。
再現例 B1(電話)
不正利用を検知しました。ご本人様確認のため、いまショートメッセージで届いた番号をお読みください。
目的:あなたが読み上げた瞬間、相手はその番号を使ってログインする。教えてしまったときの手順 →
再現例 B2(画面)
ご本人様確認のため、認証コードを入力してください。(偽サイトでIDとパスワードを入れた直後に表示される)
目的:本物から届いた正規のコードを、有効時間内に横取りする。仕組みは03-4で説明します。
再現例 C1
お荷物のお届けにあがりましたが、ご不在のため持ち帰りました。ご確認ください http://…
目的:短縮URLから、アプリの導入や設定の変更へ進ませる。宅配SMSへの対応 →
再現例 C2
ウイルスに感染しています。ただちにサポート窓口へお電話ください。
目的:電話をかけさせ、遠隔操作アプリを入れさせる。偽警告への対応 →
再現例 D1
(「〇〇 ログイン」で検索し、いちばん上に出た広告を開いたら、偽のログイン画面だった)
目的:自分から探しに来た人を待ち受ける。届いた連絡を疑うだけでは防げません。
再現例 D2
(貼り紙や請求書のQRコードが、別のシールに貼り替えられていた)
目的:紙に印刷されたものへの信用を、そのまま利用する。
再現例 E1
還付金の受け取り手続きが完了していません。期限内にお手続きください。
目的:口座情報やログイン情報を入力させる。焦らせないので警戒が働きにくい型です。
再現例 E2
保有ポイントの有効期限が近づいています。受け取り手続きをしてください。
目的:期限を理由に、落ち着いて確認する時間を奪う。
型と同じくらい、届くタイミングが効いています。
文面は違っても、使われているものは同じです。6つに畳めます。
本物の企業も、期限を切ります。リンクを貼ります。パスワードの変更を促すメールを送ります。つまり「怪しい文面の特徴」は、本物と偽物を分ける線になっていません。
ここまで型を見てきた方は、いま「では、どこを見れば分かるのか」と考えているはずです。次の章がその答えです。残念ながら「どこを見ても分からない」という答えになりますが、それには理由があります。
この特集の中心
「注意していれば見分けられる」という前提そのものが、もう成り立ちません。何が偽装できるのかを、5つに分けて並べます。
メールの差出人名(「Amazon」「〇〇銀行」)は、送る側が自由に設定できます。名刺に好きな肩書きを刷るのと同じで、書いてあること自体は何の保証にもなりません。しかもスマホのメールアプリの多くは、差出人の名前だけを表示し、アドレスを最初から見せません。
「では、アドレスの@のあとを見れば?」——ここも足りません。送信元のドメインを詐称できないようにする仕組み(SPF・DKIM・DMARCと呼ばれます)は普及していますが、これは受信側とサービス側で自動的に働く仕組みであって、あなたが目で確認できるものではありません。そして効いていたとしても、攻撃する側は自分で取得したよく似た別のドメインを使えば済みます。
実際に使われる例:本物に一文字足したもの、区切りを足したもの、末尾だけ違うもの。並べて見せられれば違いは分かりますが、片方だけが届いたときに気づける人はほとんどいません。
つまり:「@のあとが公式っぽいから本物」は成り立ちません。
短縮URL、転送、正規サービスのリダイレクト機能を挟まれると、押すまで行き先が分かりません。さらに、URLの「どこが持ち主なのか」は、慣れていないと読み取れない形をしています。
apple.com.login-verify.example は Apple ではありません。持ち主を表しているのは末尾側であって、途中に本物の名前をいくら入れても、それは飾りです。この読み方を一般の方に求めるのは、現実的ではありません。
鍵マーク(🔒)も、本物の印ではありません。あれは「通信が暗号化されている」という意味であって、「相手が本物である」という意味ではありません。証明書は誰でも無料で取得できるため、偽サイトにも普通に鍵マークが付きます。
つまり:URLを凝視して見分ける方法を、MAMORUGはおすすめしません。
ウェブサイトの見た目を作っているデータ(文字、画像、配置の指定)は、誰でも取得できます。ロゴも、色も、余白も、そのまま複製できます。見た目の差は、原理的に作れません。
さらに進んだ手口では、偽サイトが本物のサイトをその場で読み込んで表示します。この場合、あなたが見ている画面は「本物そっくり」ではなく本物そのものです。間に一枚、見えない中継役が挟まっているだけです。
つまり:目で判別するための材料は、画面の中に存在しません。
ここが、いま最も誤解されている部分です。「二段階認証を設定してあるから、パスワードが漏れても大丈夫」——残念ながら、それだけでは足りない場合があります。
03-3で触れた「中継役」が入ると、こうなります。
SMSで届く数字も、認証アプリに表示される数字も、この形では同じように通ってしまいます。スマホに出る「ログインを承認しますか?」の通知も、タイミングを合わせて押させることができます。
そしてもう一つ。この手口で最終的に盗まれるのは、突き詰めると「ログインが済んだ状態」そのものです。だからパスワードを変えただけでは、相手が入ったままになることがあります。あわせて「すべての端末からログアウト(サインアウト)」まで行う必要があります(06で手順を示します)。
ここで破られているのは「あなたが打ち込む種類のコード」だけです。二段階認証があるだけで、どこかから流出したパスワードを使った自動的な乗っ取りは、ほぼ止まります。まだ設定していない方が、いま設定するのは、いまでも正しい一歩です。これは階段を1段上げる話であって、階段そのものを否定する話ではありません。二段階認証とパスキーの設定 →
ここまでの話は、すべて「あなたが何かを入力し、それが転送される」という形でした。入力するものが無ければ、転送するものもありません。それがパスキーです。
パスキーでは、鍵がスマホやパソコンの中にあり、その鍵は「どのサイト用の鍵か」を覚えています。偽サイトの前に立たされても、住所が違うので、鍵はそもそも反応しません。あなたの指紋や顔で確認するのは、その鍵を使ってよいかどうかだけです。
大事なのは、本物かどうかを判定しているのが人間の目ではなく、端末だという点です。だから「そっくりに見えるかどうか」は、まったく関係がなくなります。
つまり:見分けを人間の目からはずして、仕組みに任せる。これがこの特集の着地点です。パスワード・パスキー・二段階認証の関係を整理する →
スマホやブラウザの保存機能(パスワード管理機能)にも、あまり知られていない効き目があります。保存したサイト以外では、自動入力が出てきません。
つまり「いつも出るはずの自動入力が、今日は出てこない」ということ自体が、その画面が別のサイトであるという合図になります。見分けを人間ではなく道具に任せる、いちばん手軽な形です。パスワード管理機能の始め方 →
構造
「これだけ偽メールが来るなら、名前を使われている会社が何とかすべきでは」——自然な疑問です。ここには、知っておくと納得できる構造があります。
攻撃する側は、その企業のシステムに侵入していません。自分で用意したサーバーからメールを送り、自分で取得したドメインにコピーしたサイトを置きます。企業の設備は、一切使われていません。名前と見た目だけが借りられています。
だから企業の側からは、そのメールが送られたことも、あなたが開いたことも見えません。自社のログにも記録が残りません。届いた人が知らせてくれるまで、存在にすら気づけないことがあります。
企業がまったく何もしていないわけではありません。送信ドメインの認証を整え、公式アプリの中で通知を出し、パスキーを提供し、見つけた偽サイトには停止を依頼しています。ただ、偽サイトは止めても翌日には別の住所で立ち上がります。追いかけ続けるしかないのが実情です。
つまり:名前を使われた企業を責めても、あなたのアカウントは守れません。その瞬間に「どこから入るか」を選べるのは、あなただけです。だからこの特集は、企業ではなくあなたの手元の話をしています。
引っかかるのは、注意が足りないからではありません。03で見たとおり、見分けを人間の目に任せる設計そのものが、限界に来ています。実際、警告メールに正しく反応しようとした人ほど狙われる型(再現例A2)まであります。責める話ではなく、やり方を変える話です。
行動
見分けないと決めたら、やることは4つだけです。全部を今日やる必要はありません。上から順に、できるものから。
届いた連絡は「お知らせが来た合図」としてだけ受け取り、確認は必ず公式アプリか、自分で保存したブックマークから行います。リンクを押さないのではなく、入口を自分で決めておくという考え方です。
まずはメールの中心アカウント(GoogleまたはApple)から。ここは他のサービスの復旧にも使われる、鍵束の中心です。
03-6のとおり、自動入力が出ないこと自体が合図になります。道具に見分けさせる、いちばん手軽な方法です。
事後対応
気づいてこのページを開いた時点で、対応は始まっています。順番だけ置いておきます。
詳しい手順:情報を入力してしまったとき/乗っ取られたかもしれないとき/知らないカード請求/知らない送金・出金
「引っかかった自分が悪い」と考える必要はありません。気づけたこと、すぐ変えたこと、確認しに来たこと。それがいちばん効きます。次に必要なのは反省ではなく、05の設定です。
この特集は、公的機関(フィッシング対策協議会・IPA・警察庁など)と主要サービスの一次情報をもとに、一般家庭が実際に判断・行動できる形へ編集したものです。手口は変わり続けるため、およそ半年ごとに全体を見直し、変更点は履歴として残します。
数字は毎月更新されるものです。本文に掲載している値には確認日を添えていますが、最新の状況はフィッシング対策協議会の月次報告でご確認ください。
およそ半年ごとに、手口の型・統計・パスキーの対応状況を一次情報で確認します。変更がなかった場合も、確認した事実をここに残します。